いまや新入社員だけではなく、ビジネスパーソン全般に求められる能力となった『社会人基礎力』。
加速度的に変化する社会の中で、今後のキャリアのあり方を検討する際、誰もが意識すべき能力の一つであるといえるでしょう。
この記事では社会人基礎力の説明とともに、その鍛え方について詳しく述べていきたいと思います。
社会人基礎力とは
社会人基礎力自体は経済産業省が主催した有識者会議により以下のように定義されています。
職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力
◆―関連情報―◆ 社会人基礎力―経済産業省
そして、以下の3つの能力(12の能力要素)から構成されるとされます。
- 前に踏み出す力(アクション)
- 考え抜く力 (シンキング)
- チームで働く力(チームワーク)
次に、各々の能力について詳しくみていきたいと思います。
社会人基礎力における「前に踏み出す力」
この能力は一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力とされ、主体性、働きかけ力、実行力の3つの能力要素から構成されています。
参考 : 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料
特に職場では指示待ちにならず、一人称で物事をとらえ、自ら行動できるようになることが求められているということです。
他者を巻き込む力である『働きかけ力』を具体的にいえば、自らの目的と目標を積極的に周囲に公言し、必要なサポートを得ることができるといった姿になると思われます。
また、失敗をしても粘り強く取り組む力であることから、上の3つの能力要素に加え、失敗を恐れず、その経験をプラスにとらえることができるという物の見方も必要になってくるのではないでしょうか。
社会人基礎力における「考え抜く力」
この能力は現在取り組んでいることに関して何か疑問を持ち、そのことを考え抜く力とされ、課題発見力、計画力、創造力という3つの能力要素から構成されています。
参考 : 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料
特に職場では論理的に答えを出すこと以上に、自ら課題提起し、解決のためのシナリオを描く、自律的な思考力が求められているとのことです。
例えば、仕事を進める現状のプロセスがあった時に、もっと効率良く作業を進める方法はないかと疑問に持ち、改善点はどこかを考え、その解決のためのシナリオを描くといったイメージになると思われます。
これら一連の作業を自律的に進めるためには、まさに考える続ける、考え抜く力が求めらえるといえそうです。
◆ カテゴリー:自分づくりと思考
社会人基礎力における「チームで働く力」
この能力は考え方や価値観等が異なる多様な人々とともに、目標の達成に向けて協力する力とされ、発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、そして、ストレスの発生源に対応する力であるストレスコントロール力という6つの能力要素から構成されます。
参考 : 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料
特に職場ではグループ内の協調性だけに留まらず、多様な人々とのつながりや協働を生み出す力が求められるとのことです。
この能力は最も多くの能力要素から構成されていますが、それらはコミュニケーション能力を構成するもの、また、チームワークを発揮するためのものともいえるのではないでしょうか。
多様な人々との交流は一人ひとりの考え方の幅を広げ、個人内、またはチーム内でのイノベーションにつながることが期待されます。
人生100年時代の社会人基礎力
2006年に発表された社会人基礎力ですが、人生100年時代や第四次産業革命のもとでその重要性が増し、その後、2018年に人生100年時代の社会人基礎力として新たに定義されています。
具体的には、これまで以上に長くなる個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力と定められてます。
そして、社会人基礎力の各能力を発揮しつつ自らのキャリアを切り拓いていく上で、自己を認識してリフレクション(振り返り)しながら、どう活躍していくか【目的】、何を学ぶか【学び】、どのように学ぶか【統合】という3つの視点のバランスを図ることが必要とされています。
参考 : 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料
上の図からは、自らのキャリアを切り拓いていく起点となるのは自己を認識するリフレクション(振り返り)であること、また、そのような振り返りを生涯を通じて繰り返し実施していくことの必要性が示されています。
また、「人生100年時代の社会人基礎力」という再定義により、繰り返しになりますが、これまで学生が中心であった対象は社会人全般へと広がりをみせていることを示しているといえます。
社会人基礎力が提唱された背景
雇用のミスマッチや若者の早期退職が社会問題化する中、それらの改善を目指して、企業の採用側と大学側とで、個人の能力に関する共通認識を持つことを目的に社会人基礎力は発表されました。
経産省がこのような基礎的な能力を発表した背景には、産業界が大学側にもとめる人物像と現実との間にギャップがあり、それを埋めるために、専門知識や技能、語学力のほかに社会人としての基礎的な能力の向上を学生側に求めた形です。
このように、社会人基礎力には産業界側の意向が強く反映されているといえるでしょう。
一方、大学教育の中での社会人基礎力の育成に関しては、教育目標がより明確になるというメリットがある反面、以下のような批判も出されています。
- 大学の教育プログラムの中に社会人基礎力の育成を含めることは、大学教育の根幹を大きく変えるものとなる可能性があるが、その点が十分に議論されていない
- 個人の人格的成長にとって果たす役割が明確化されていない
- 規格化された社会人基礎力なるものが、実際の仕事の上でどこまで役に立つかについても明らかになっているとはいえない
◆―関連情報―◆ 社会人基礎力をめぐる批判―Wikipedia
社会人基礎力は大学教育の中で育成されることが期待されています。あとは、その期待に大学側が、そして、教員側がどのように応えていくかではないでしょうか。
社会人基礎力の鍛え方
ではいよいよ、この記事の本題である社会人基礎力の鍛え方について述べていきたいと思います。
鍛え方1――基本的な方針
既に述べましたとおり、社会人基礎力は以下の12の能力要素というように、構成が多岐にわたる能力となっています。
- 主体性
- 働きかけ力
- 実行力
- 課題発見力
- 計画力
- 創造力
- 発信力
- 傾聴力
- 柔軟性
- 情況把握力
- 規律性
- ストレスコントロール力
これらの能力全般を高めていくためには2つの戦略があると思われます。
1つは個々の能力要素にそれぞれアプローチしていくというものです。もう一つは中核的な能力要素にアプローチし、そのプラスの効果を能力要素全体に波及させていくというものです。
この記事では後者の戦略に則り、限られた時間の中で社会人基礎力全般を効率良く鍛えていく方法について述べていきます。
鍛え方2――中核的な能力要素に着目する
個人的には、中核的要素は3つ見られると考えています。それは主体性と実行力、そして、ストレスコントロール力です。
その理由を以下に説明していきます。
主体性が中核的要素である理由
主体性はこれからの教育の形であるアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)の中で重視されている学習者の姿で、12の能力要素の中でも別格的位置づけであるといえます。
また、主体性とは自ら考え、判断し、行動することができるという特徴を表していますので、既に考え抜く力を含めた能力であるということができます。
これらのことから、主体性を高めることで、考え抜く力に関する能力要素(課題発見、計画力、創造力)も同時に鍛えていくことができると考えられます。
実行力が中核的要素である理由
仕事において成果を出していくためには、考えるだけでは不十分であり、やはり自ら行動し、結果を出していく必要があります。
そのような意味で、目的を設定し、確実に行動する力である『実行力』は、社会人基礎力において重要な役割を果たしていると考えられます。
目的を設定するということは、実質的には目標を設定していくということになります。また、結果を出すために行動に移していくためには、目標の達成に向けて、いまこの瞬間に何をすべきかが明確になっている必要があります。
何をすべきかが明確であればあるほど、私たちを動機づける力は大きくなっていきます。それに伴い、『実行力』も発揮されていくという流れです。
ストレスコントロール力が中核的要素である理由
まず、この能力要素の意味を改めて確認しておきます。これはストレスを発散する、軽減するといった、ストレス反応をコントロールする能力ではないということです。
正確には、ストレスの発生源であるストレッサーをコントロールする能力となります。もっと具体的にいえば、ある物事がストレスを生み出す原因となるか否かを決める能力と表現されます。
私たちの生活の中には多くのストレッサーが存在します。身近なものであれば気温や湿度等の天候をはじめ、通勤・通学での人の多さ、満員電車、勉強や仕事、経済的なこともストレスの原因となります。
そして、その中で最も大きなウエイトを占めているが人間関係であるということができます。
良好な人間関係が構築されている時は、そこでの関係性はひとり一人の成長を促すものとなる可能性があります。
ですが、その関係性に何か問題が生じると、それは勉強や仕事に限らず、日々の生活全般に悪影響を及ぼしてしまいます。
つまり、チームで働く力(発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性など)をいかんなく発揮していく上で、人間関係をはじめ、多様なストレッサーに適切に対処できる能力は非常に重要になってくるということです。
鍛え方3――主体性、実行力を鍛える方法
この記事では、主体性と実行力を鍛える(高める)方法について述べていきたいと思います。
ストレッサー(ストレスの発生源)をコントロールする能力については、以下の関連記事の中で言及をさせていただきます。
主体性を鍛える方法
まず、主体性についてですが、主体性は本人が努力して鍛えていく場合と、その上司が部下(本人)に対して働きかけていく中で鍛えられていく場合があります。
この記事では前者のケースについて見ていきたいと思います。
主体性を鍛えるためには、以下の複数の方法を挙げることができます。
- 自分次第で人生は大きく変えられると自覚する
- 自己理解を深める
- 自ら考える機会を増やし、自分の意見を持つ
- 期限付きの目標を設定する
- 生き方のモデルとなる人物を探す
- 『失敗』をポジティブワードに言い換える
- 他人は自分のことをそこまで気にしていないと思う
- 親元を離れて一人暮らしを始める
ここでは、2番目の『自己理解を深める』と5番目の『生き方のモデルとなる人物を探す』に焦点を当て、日々の業務の中で主体性を鍛える方法について述べていきます。
特に自己理解を着目した理由は以下の2点となります。
- 自らの『強み』を知る上で大切な作業であるため
- 自己理解を深めることで、『自らの取り扱い説明書』を作成していくことができる。そのような説明書は、自分を主人公にし主体的に生きていく上で欠かせないものであるため
自己理解を深め、自らの主体性を鍛える
自己理解を深めることは容易ではないといわれます。その理由は自らを客観視することが難しいからではないでしょうか。
そのような自己理解を深めていく上で、他者からのフィードバックは貴重な情報源となります。
つまり、自らの言動に対する上司からの指摘や評価、アドバイスといったフィードバックは、とらえ方次第で、すべてあなたの自己理解を促すものとすることができるということです。
時には厳しい指摘を受けることもあるかもしれませんが、そのようなフィードバック情報は、自己理解を強力に促してくれるものとなるはずです。
生き方のモデルを探し、自らの主体性を鍛える
あなたの周りに、尊敬できるような人物はいるでしょうか?
あなたがその人物に魅力を感じる理由は、その人物も日々を主体的に生きているからではないでしょうか。
つまり、既に主体性を身につけている人物の言動を真似する・モデリングすることで、主体性を鍛えていこうということになります。
大学生の頃に比べ、社会人の場合はより幅広い年代の人物を身近に感じることができます。その中であなたがモデルとした人物を探し、積極的にモデリングしていくことで、より効果的に主体性を鍛えていくことができると思われます。
実行力を鍛える方法
先に、実行力とはやるべきことが明確に記される具体的な目標が設定されることで高まっていくと述べました。
ですが、具体的な目標を設定するというのは、一見、簡単そうでなかなか困難な作業であるといえます。
例えば、日々の具体的な目標を設定するために、その先の長期的な目標から逆算して、今日明日のやるべきことを順序よく導き出していく必要があります。
具体的な目標とするためには、達成までの期限を設けたり、数値目標を設定するという方法もありますが、モチベーションを下げない範囲での適切な期限や難易度を設定することが求められます。
これらの内容は、目標設定が実は技能であることを表しています。
技能であるということは、そこには多くのコツや必要な考え方というものがあります。それを一つひとつ抑えていくことで、自分に合った適切な目標を具体的に設定でき、実行力も高めていくことができると思われます。
目標設定のコツや必要な考え方については、以下の関連記事にまとめられていますので、興味・関心がある方はぜひご覧になってみてください。
鍛え方4――大学教育の中での実践
なお、社会人基礎力自体は、大学教育の中で鍛えることが期待されている能力ともいえますので、最後に、大学教育や学生生活の中で、社会人基礎力を鍛える可能性がある活動についてみていきたいと思います。
実践1 : 初年次教育でのグループワーク
特に多数の学部を擁する総合大学の場合、初年次教育では学部を横断した形でクラスが編成され、その中で学生たちは多様なバックグラウンドを持つ個人と交流することができます。
そこでは自分とは異なる価値観や興味・関心、考え方に触れ、他者と協力しながら作業を進めることの難しさを感じるはずです。
また、チームワークやチームとしての実力を発揮するためには、積極的に交流を重ね、相互理解を深めていくことが大切であるの認識を深めていくことができるでしょう。
このような学部横断的なグループワークを通じては、特に「チームで働く力」の形成を効果的に促していくことができるのではないでしょうか。
実践2 : 部活動・サークル活動
学生による主体的な運営・活動が求められる部活動・サークル活動も、社会人基礎力の向上に貢献することが期待されます。
中でも、自分たちの日頃の練習の成果を発揮する場でもある大会が定期的に開催される運動部活動は、特に効果的ではないでしょうか。
大会に向けて期限のある明確な目標を設定することで、個人やチームとしてのパフォーマンスの向上に向けたトレーニングに意欲的に参加でき、結果として、社会人基礎力全体を強化していく可能性があると考えられます。
実践3 : 卒業研究
卒業研究の実施にあたり、早い大学では2年生から、一般的には3年生からそれぞれの研究室に所属します。
そして、指導教員の助言・アドバイスを受けながら研究のテーマを決め、主体的に研究を実施、その結果を学術論文としてまとめていきます。
途中、なかなか研究テーマが決まらない、うまく実験ができない、データが得られない、仮説と反する結果が得られた等、さまざまなトラブルが発生することもあるでしょう。
そのような数々の困難を乗り越えやり遂げられる卒業研究を通じては、特に「前に踏み出す力」や「考え抜く力」の形成が促されるのではないでしょうか。
実践4 : アルバイト
これは学内での実践というわけではありませんが、大多数の学生が取り組む内容であるため、大学教育での実践の1つとして位置づけています。
企業において実際に働く経験ができるアルバイトは、学外の活動の中では、社会人基礎力を高める機会の筆頭として挙げられるのではないでしょうか。
ですが、学業に支障が発生しない適度な範囲での実施が望ましいといえます。
アルバイトでは一定の経験を積めば、上司から頼りにされ、主体的に活動できる場面が増えてくると思われます。また、それにより責任感も形成されることが期待されるでしょう。
そのような主体性にもとづく経験は、特に「前に踏み出す力」の形成が促されるのではないでしょうか。
社会人基礎力を鍛えていくことのメリット
メリット1 : 自らをアップデートしつづけることができる
社会におけるIT化やAI(人工知能)の台頭をはじめ、さまざまな技術は日々飛躍的に進歩しつづけています。それに伴い、ある専門知識やスキルが過去のものとして認識されるスピードも徐々に速まってきているといえるでしょう。
現代社会では生涯を通じて学びつづける姿勢が強く求められているといえ、その中で社会人基礎力は自らをアップデートするための指標として位置づけられています。
現在、文部科学省等が推進に力を入れているリカレント教育、いわゆる社会人における学び直しにおいても、社会人基礎力は対象とされるべき能力であると思われます。
メリット2 : 企業や社会から求められる人材になっていける
社会人基礎力の中核的要素である『主体性』等を高めていくことにより、自分自身で考え、判断し、行動していくことができる自律型人材になっていけるといえます。
労働者人口の減少が見込まれる中、企業としても、会社全体の生産性を維持・向上させていく上で、そのような人材の確保を重要な検討課題としていると考えられます。
メリット3 : 健康的な生活を送っていくことができる
人間の健康には3つの側面があるといわれます。身体的健康、精神的健康、そして、社会的健康です。
特に『チームで働く力』を鍛えることによって、人とのかかわりの中で感じられる社会的健康を高めていけることが期待されます。
また、その力の構成要素の一つである『ストレスコントロール力』を鍛えることで、悩みや不安、怒り等の負の感情をコントロールできるようになり、結果として、精神的健康の向上に寄与することができるといえます
心身の健康は社会人としての生活の基盤となるものです。その健康度を維持・向上させていく上で、社会人基礎力は重要な役割を果たしているといえます。
まとめ
個人の成長を表す基礎的・汎用的能力は、社会人基礎力に限らず、生きる力や人間力、そしてライフスキルというように複数見られます。
これらの能力は本質的にはそれほど差異はないと思われますが、それをどのような文脈で、枠組みでとらえるかでその能力が持つイメージや印象は決まってきます。
その中でも最も大切なことは、やはりそれらの能力を効果的に高める方法や鍛え方ではないでしょうか。
この記事では、社会人基礎力の中核的な能力要素に着目し、その中でも『主体性』と『実行力』を鍛える方法について述べました。
また、大学教育の中で社会人基礎力を鍛えることにつながる活動についても紹介をさせていただきました。
これらの内容が、あなたの社会人基礎力の向上に少しでも役立つものとなれば幸いです。
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