こんにちは。あなたの自分づくりをちょこっとお手伝い「しまらぼ」のしまもとです。
コロナ禍を機に始まったオンライン授業をはじめ、対面授業やグループワーク、タブレット学習、動画学習等と学びにはさまざまな形がありますが、それらの中で最も優れた学習法は何なのか?
ラーニングピラミッドという考え方にもとづくと、「学習した内容を人に教える」が最も効果的な学習法となります。
この記事では新しい教育の形である、主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)で採用される学習法の重要性を示す、このラーニングピラミッドについて説明をしていきたいと思います。
ラーニングピラミッドとは
ラーニングピラミッド自体は、アメリカ国立訓練研究所から出された学習モデルです。
そこでは、インプット学習とアウトプット学習に大別される以下の7つの学習法を、それらの平均的な学習定着率(学習内容を学習者がどの程度覚えているか)からピラミッド形式で序列をつけたものとなります。
- 講義
- 読書
- 視聴覚
- デモンストレーション
- グループ討論
- 自ら体験する
- 他の人に教える
上記の学習法のうち「1」~「4」はインプット学習、「5」~「7」はアウトプット学習としてそれぞれ位置づけられます。そして、以下がラーニングピラミッドです。
出典:ラーニングピラミッド――キャリア教育ラボ
各学習法の意味は以下のような感じになります。
- 講義 → 講義を受ける
- 読書 → 読書をする
- 視聴覚 → DVDやテレビ・ラジオ番組を視聴する
- デモンストレーション → 実演を見る
- グループ討論 → グループディスカッションやディベート等を行う
- 自ら体験する → 学習した内容を自ら実践(練習)する
- 他の人教える → 学習した内容を他者に伝える
さらに補足すれば、1.の「講義を受ける」は教師が一方向に知識・情報を伝える従来の授業形態となります。
学習定着率はたった5%ですので、仮に講義を受けた後に復習をしなければ、最悪の場合、定着率はほぼゼロに近くなってしまいますね。
また、上のラーニングピラミッドにも図示されていますが、アウトプット学習である「5」~「7」は、学修者の能動的な学修を促すアクティブラーニングの中で実施される学習法です。
定着率の数値だけ見ると、アプトプット学習から構成されるアクティブラーニングは、従来の講義形式に比べかなり効果的な学習法であるといえます。
なお、ピラミッド最上位に位置づく学習定着率5%の「講義を受ける」について、人間の記憶と関連させて一点補足をしておきます。
人間の記憶というのは、下記の「エビングハウスの忘却曲線」によると、インプット終了直後から急激に減少してしまいます。
出典 : 勉強のコツ――時空先生のドリルプリント
ですが、インプット終了以降に定期的に復習を繰り返せば、記憶の低下は抑えることができるということです。
つまり、繰り返しになりますが、講義を受けて、その後まったく復習を行わない学習というのは、人間の記憶の面からも非常に効率の悪いものということができます。
限られた時間を有効に活用していくためには、講義後に短時間でもいいので、学習した内容を一通り見返す習慣をつけることが望ましいといえます。
また、学習者本人の努力も必要ですが、授業実践者としても、授業のはじめには前回の講義内容の復習から入る形が理想的ですね。
周知の事実ではありますが、いま一度再確認しておきたいと思います。
ラーニングピラミッド最下層の『人に教える』は日常的な学習の形
最も学習定着率が高いとされる「他の人に教える」ですが、これは教室内だけに限らず、それ以外の場面でも見られる学習の形だと思います。それは「親と会話をする場面」です。
子どもたちは登下校の場面、教室での学び、休み時間や放課後の友だちとの遊び等を通して新しい体験をし、さまざまな学習を行っています。
そして、それらの内容は夕方以降、家庭内で親に伝えられます。これは形だけ見れば今日あった出来事を伝えているようですが、意味としては今日学習した内容を親に教えているということができます。
つまり、親子での何気ない会話は、子どもたちの学習定着率を高める貴重な学びの場となっているということです。
この「人に教える」に関して、もう一つ触れておきたいことがあります。
ラーニングピラミッドは学習者へ適用される考え方ですが、学習の有無でいえば、教師自身も自己研鑽を通して日々学びを行っている立場にあります。
そのように考えると、日々、子どもたちに教えるを当たり前に繰り返している教師は、子どもたちと同程度、またはそれ以上に効果的に学習を行っているといえるのかもしれません。
子どもとの触れ合いが好きで学ぶことも好きな人にとって、教師はまさに天職といえそうです。
ラーニングピラミッドの学習法を実際の授業に当てはめてみる
次に、ラーニングピラミッドにおける各学習法を実際の授業に当てはめながら、より理解を深めていきたいと思います。ここでは実技と座学の授業を取り上げます。
ケース1 : 体育の実技授業への当てはめ
以下に、ラーニングピラミッドにおける学習法とその学習定着率を再掲します。
- 講義 ( 5%)
- 読書 (10%)
- 視聴覚 (20%)
- デモンストレーション(30%)
- グループ討論 (50%)
- 自ら体験する (75%)
- 他の人に教える (90%)
分かりやすさのため、「4」~「7」の学習法に焦点を当てていきます。
まず、「4」のデモンストレーションは、これから学習を行う運動課題の模範演技を、教師や運動が得意な生徒に披露してもらうことを表します。
ただ、最近はタブレット機器等を用いてその場でお手本の動画を見ることができます。一時停止やスローモーションで見ることもできますので、これからは教師による実演の機会は減ってくるかもしれません。
つづく「5」のグループ討論は、バスケットボールやサッカーといったチーム種目を行う際の、チームごとの作戦会議や、試合後の振り返り等の活動が当てはまるといえます。
必要に応じて教師が顔を出し助言を行うことで、チーム内の話し合いをより活発にしていくことができると思われます。
続く「6」の自ら体験するは、運動課題の達成や運動技能の習得に向けた生徒自身による練習であるといえます。定着率は75%と高めですが、そのためには繰り返し練習を行う必要があります。
失敗を恐れない気持ちや、練習次第で自己の能力は高めていくことができるといった考え方(マインドセット)の形成を合わせて促すことができればより効果的ですね。
最後の「7」人に教えるは、主に運動が得意な生徒が運動を苦手としている生徒に教えるという形が想定されます。
その際、運動が得意な子は自ら体験することができないため、場合によっては欲求不満を感じてしまうことになるでしょう。
その時に、人に教えるは最も学習効果が高い活動であり、結果として、そのことを通して運動技能そのものへの理解を深めることができます。
それにより自身の運動技能のさらなる向上が期待されるといった、ベネフィットの部分をきちんと説明をしていく必要があります。
ケース2 : 座学の授業への当てはめ
次に、教室内で行われる座学の授業への当てはめについて述べていきます。確認のために、ラーニングピラミッドの各学習法を以下に再再掲します。
- 講義 ( 5%)
- 読書 (10%)
- 視聴覚 (20%)
- デモンストレーション(30%)
- グループ討論 (50%)
- 自ら体験する (75%)
- 他の人に教える (90%)
主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)としての授業を想定して話を進めていきますので、アウトプット学習である「5」~「7」の学習法に着目します。
まず、「5」のグループ討論はその名の通り、グループワークやグループディスカッションに該当しますね。
ただ、この学習法がメンバー個々人にとって有益なものとなるためには、一人ひとりが自分の考えを持った上で、議論に参加する必要があります。
自分の考えを持たない状況では、終始、メンバーの話に耳を傾けるだけといったことになるおそれがあります。
この点は一人ひとりが主体的に学習を進めていく上で、極めて重要なポイントだと思いますね。
また、一人ひとりの考えはグループ内でしっかりと共有されることで、グループ討論の効果はより高まっていきます。
なぜなら、自分では思いもよらないアイディアに触れられたり、逆にメンバーとの共通項を発見できたりと、互いに刺激を受けることができるからです。
特に共通項の発見は「類似性の法則」により、メンバー間の心理的距離を縮め、親密な関係の形成を促すことができるはずです。
◆―関連情報―◆ 類似性の法則 / コールセンターの心理学
次に、「7」の他の人に教えるについて言及します。
グループ討論を行った後は、そのディスカッションの結果をクラス全体に向けて発表することが一般的であるといえます。
そうです。ディスカッションの結果発表が他の人に教えるに該当してきます。
発表そのものは代表者一人で、またはメンバー全員が前に出て行われると思いますが、発表に向けての準備として、ディスカッションの結果をまとめる・整理するという作業があります。
限られた時間の中でどのような内容を、どのような流れで、どのような言葉で伝えるのかを入念に検討することは、一人ひとりの要約力や「考える力」の強化につながるはずです。
思考力・考える力自体は、自ら考え判断し、行動していけるという「主体性」の中核となる能力です。また、人工知能・AIとの共存が進むこれからの時代において、必須のヒューマンスキルになっていくものです。
以下の「関連記事」でにおいて、その鍛え方が詳しく解説されていますので、こちらの方もぜひチェックしてみてくださいね。
ラーニングピラミッドをめぐる批判
ラーニングピラミッドにおける学習定着率の数値は実証的に導き出されたものではないといわれます。数字に根拠はなく、あくまでも理論的なモデルということです。
数値についてさらにいえば、学習法に関する実験を行った場合、このような10%刻みのきれいな数値で結果が出ることは、そもそも現実的ではないといわれています。
また、ラーニングピラミッドが考案されたのは今から50年以上も昔の話で、そもそも考案された当初は、最階層の「人に教える」はなかったともいわれています。
現代に至るまで、人々のさまざまな思惑が加わりながら徐々に形を変えてきたのがラーニングピラミッドであると思われます。
◆―関連情報―◆ 「学習のピラミッド」モデルというゾンビ
ラーニングピラミッドから読み取れること
ラーニングピラミッドは根拠が乏しいという面もありますが、それは主に学習定着率という数値に関しての話です。
学習者が能動的になればなるほど学習の定着率は高まるという解釈は、私たちが経験から実感する部分と合致するのではないでしょうか。
最後に、そんなラーニングピラミッドから読み取れることを考えてみます。
その1 : 従来の授業形態の意義は決して小さくない
学習の定着率が最も低いからといって、従来の授業形態である「講義を受ける」が軽視されるべきではないと思います。
なぜなら、個々の講義を通して多くの知識や情報に触れることで、場合によっては興味・関心や知的好奇心が喚起され、その後の能動的な学習へと発展していく可能性があるからです。
また、新しい知識や情報は一人ひとりの考え方の幅を広げることに貢献し、グループ討論を行った際には、より深い議論の展開が期待されます。
要はある一つの授業の中で、ラーニングピラミッドの上位層から下位層へ向けて、各学習法がスムーズに展開されていくのが理想の形ではないでしょうか。
例えば、大学の講義(90または100分)であれば、前半部分ではその日のテーマに関する講義を行い、知識・情報の提供を行います。後半部分では、教員からの「発問」をもとにグループ討論を行ってもらうといった流れです。
学習定着率で見ると、「講義を受ける」という学習法は単体では軽視されてしまいそうですが、その他の学習法と上手く組み合わせることで、その良さを発揮していくことができるはずですね。
その2 : 学習者の自己理解を促すアウトプット学習
ピラミッドの下位に位置づくアウトプット学習の効果は、学習定着率を高めるだけではなく、学習者の自己理解を深めることにも貢献しているといえます。
ここでいう自己理解とは、人前やグループの中での立ち居振る舞いや話し方、物事の感じ方、自らの語彙力や学習内容の理解度等といったものになります。
このような自己理解を深める上で直接的な役割を果たしているのが「自己開示」です。事実、学術的にも、自己開示は「自己への洞察を深める」という心理的効果を有しているといわれます。
アウトプット学習では、学習内容とともに自分という人間をも、一連の言動を通して周囲に表出していくことになります。
自分の発言内容を自らの耳で聴いたり、自身の行動の様子を後で振り返ったりすることで、効果的に自己理解を深めていくことができます。
なお、自己開示は自分自身への理解を深めることに限らず、他者とのコミュニケーションを円滑にする上でも重要な役割を果たしています。
その詳細については以下の「関連記事」の中で言及しています。
また、自己理解についてもう少し補足すると、自己への理解を深めるとは自らの取り扱い説明書を作成する作業であるともいえます。そのような自分専用のトリセツがあることで、日常への適応をよりスムーズに進めていくことが可能になります。
加えて、自己理解は自分に合った目標を見出していく上で欠かせないものです。自分の「現在地」を正しく認識することで、次の目標を適切に設定することが可能です。
このような学習者の自己理解を促進するという効果からも、アウトプット学習を軸とするアクティブラーニングの意義を見出していくことができますね。
まとめ
この記事の中で触れたラーニングピラミッドに関する内容を簡潔にまとめますと、以下の一覧になります。
- これからの教育で採用される学習法の重要性を示すものである
- 学習の形が能動的になればなるほど、学習の定着率は高まる
- 定着率の具体的な数値に関する根拠は希薄である
- 自己理解を深めていく上で、アウトプット学習は一定の役割を果たしている
そして、繰り返しになりますが、ラーニングピラミッドは効果的な学習のあり方を示す「理論モデル」として位置づけ、参考にしていくことが望ましいといえますね。
最後またお読みいただき、ありがとうございました!お時間があれば、また次の記事でお会いしましょう!
◆ カテゴリー : 教育・スポーツ
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