突然ですが、私たちの日常と密接にかかわる目標設定は技能であるということができます。
技能であるということは、当然、そこには目標を確実に達成するためのコツや必要な考え方というものがあります。
それらは知識ベースの話であるため、知識として本人の中に注入されない限りは、いつまでも『知らない』といった状態が続いてしまうことになります。
その一方で、目標設定におけるコツや考え方の多くは、生涯スポーツの一翼を担う登山を通じても、その内容に気づいたり、その重要性を実感することができます。
この記事では、そのような目標設定におけるコツや必要な考え方と登山との関係性について詳細に述べていきたいと思います。
目標設定と『登山』との関係
なぜ、登山を例として目標設定を考えるのか。
その理由は、『目標を設定する』は山の頂に立つを目指すこと。『目標を達成する』は登山道に沿って山頂に到達すること。というように、視覚的にスムーズにイメージがしやすいという点があるからです。
これらのことはおそらく小学生でも理解することができると思われ、目標設定に関する知識をスムーズに伝授できるモデルであるといえるのではないでしょうか。
では以下より、このモデルから導き出される目標設定のコツ、およびそこで必要とされる考え方について記していきたいと思います。
目標設定における『原理・原則』
まず一点目は、どこどこの山頂を目指すとの目標設定とほぼ同時に考える必要がある内容についてです。
みなさんは目標を設定した後に、どのような行動を取るでしょうか?
もっといえば、目標設定の後にするべきこととはいったい何だと思いますか?
◆ 登山を例に考えてみると、目指すべき山頂が決まったら、次に行うべきは登山計画の作成作業となります。
具体的には、体力や技能レベル、経験を考慮に入れてどのルートを選択するのか。装備として何が必要か?何時に出発し、何時に山頂へ到達するか。下山の時刻はどうするか?などなどです。
これらは目標を確実に達成するための「プランニング」の作業となります。目標設定においてこのプランニングの作業が欠けると、極端な話、目標を達成できる可能性はゼロに近づいていってしまいます。
もっといえば、目標設定とプランニングは常にセットにして行うべきものということができます。まさに目標設定の原理・原則の部分であるといえますね。
目標の達成に向けたプランニングの実際
では次に、現在地から目的地(最終目標)に到達するまでの過程をどのようにプランニングすればよいかについて見ていきます。
結論からいうと、目的地までの方向性をしっかりと見定めながら、その一歩一歩を可能な限り「スモールステップ」にするということです。つまり、最終目標の達成に向けて小さい目標を無数に設定するというイメージですね。
このことは実際の登山の様子にも如実に示されています。山頂へ向けた一歩一歩はまさにスモールステップであり、そのような小さな段差であるからこそ、老若男女を問わず、山頂まで到達することができるといえます。
プランニングにおいてもう一つ大切なことは、それら大多数の小さい目標の達成が、最終目標の達成につながっていくという感覚(つながり感)です。
◆ 登山の場合も、長時間にわたり身体的・精神的に辛い状態を乗り越えることができるのは、この目の前の一歩一歩は、確実に山頂へとつながっているという確信を持つことができているからだと思います。
であるならば、あとは最終目標の達成につながる多数の小目標を導き出していけばよいという話になります。
そして、そこで非常に有効なツールとなるのが、現在、MLBで大活躍中の大谷翔平選手もかつて取り組んでいたといわれる「マンダラチャート」です。
以下は、大谷翔平選手が高校生の頃に作成したマンダラチャートとなります。
中央の黄色のマスには、作成当時抱いていた最終目標(プロ野球8球団からドラフト1位の指名を受ける)が記入されます。
その周囲の灰色の8マスには、その達成のために必要な課題(中目標)が検討され、記入されることになります。
そしてさらに、同様のことを周囲に8つある3×3の範囲のマスにおいて繰り返すことで、最終目標の達成につながる多数の課題(小目標)をスムーズに導き出していくことができる、という流れです。
なお、小目標 → 中目標 → 大目標(最終目標)までの流れは、本人の中で納得がいっているのであれば、その関連性は厳密に検証されたものでなくても問題ないと思われます。
とにかく、この小目標への取り組みは、ゆくゆくは大目標の達成につながっていくという感覚が大切であると私自身は考えています。
一方で、立てた計画どおりに物事が進まないことも現実的にはあると思います。
◆ 登山の場合も、実際に現地に行ってみないと分からないことや、天候によってはその日の登山を諦めるという判断を下す必要があります。
そのような場合は、その課題に固執しつづけるのを再考し、少しだけ方向性を変更してみたり、トライするタイミングを遅らせてみたりと、適宜修正を行う必要性も、実際問題、出てくると思われます。
その対応の判断は簡単ではないと思いますが、経験を積むことで感覚を掴めるようになってきたり、経験が少ないと思われる場合は信頼できる他者に相談をしてみてはいかがでしょうか。
いずれにしても、目標の達成に向けたプランニングにはそのような一面も含まれると認識してもらえればと思います。
個々の課題を『目標』へとブラッシュアップさせる
目標を達成するために必要な多数の課題が導き出せたところで、いよいよプランの作成へと進んでいくわけですが、ここで一つ問題があります。
それはマンダラチャートの個々のマスに示された多数の小目標は、厳密には目標としては不十分な内容であるということです。
例えば、分かりやすい例として、灰色の中目標である『運(を高める)』ための小目標の一つに、『本を読む』というのがあります。
みなさんも同様の目標を設定されたことがあるのではないでしょうか。では、『本を読む』という内容から、読書そのものへ強く動機づけられるでしょうか?
一見、『本を読む』は目標として成立しているようですが、どのようなジャンルの本を読むのか?どのぐらいのペースで読むのか?いつまでに読み上げるのか等、事前に考えておくべきことはまだまだありそうな感じです。
つまり、マンダラチャートに記されているのは多数の『課題』であって、私たちの行動を力強く動機づける『目標』としての体は未だなっていないということができます。
『本を読む』という課題を目標へとブラッシュアップさせていくたには、目標設定におけるコツ、つまり技能的側面をその内容に反映させていく必要があるということです。
目標設定の技能的側面を効率よく理解するための考え方として、「SMARTゴールセッティング」というものがあります。
これは以下に示す、目標設定の技能的側面を表す5つの英単語の頭文字をつなげたものとなります。
- Specific : 具体的な
- Measurable : 測定可能な
- Achievable : 達成可能な
- Relevant : 価値観に沿った
- Time-based : 期限のある
では順に、各側面の説明を行うとともに、それを『本を読む』という課題に反映させていきたいと思います。
目標設定の技能的側面1 : Specific/具体的な目標を設定する
目標は具体的であればあるほど望ましいといえます。その理由は、具体性が増すほど達成への動機づけを高めることができるからです。
Specificの要素を『本を読む』という課題に反映すると、例えば、以下のような内容になります。
自己啓発に関するいま話題の本を読む。
自己啓発に関する本であること、いま世間から注目されている本であること、という2点が追加され、特に読む本をセレクトすることへの動機づけが高められるのではと思われます。
目標設定の技能的側面2 : Measurable/測定可能な目標を設定する
この技能的側面を反映させるためには、目標に『数値』を含めていくことが推奨されます。
また、『測定可能である』とは、目標の進捗状況や達成状況を客観的に評価可能・測定可能であるという意味合いが含まれているといえます。
このMeasurableの要素を追加してみると、以下のような内容になります。
- 自己啓発に関するいま話題の本を1日○ページ読む。
- 自己啓発に関するいま話題の本を1日1時間読む。
ここでは1日あたりに読む分量、または時間が追加されました。
それにより、日々の様子を振り返ることで、本を読むという行動が目標どおりに遂行されているか測定する(評価する)ことが可能になったといえます。
目標設定の技能的側面3 : Achievable/達成可能な目標を設定する
この技能的側面は、目標の難易度を決める際に重要となるポイントとなります。
難易度が高すぎると途中で諦めてしまうことになります。その反対で難易度が低すぎると、『よし!やってやろう!』という意欲も喚起されづらくなると思われます。
『努力して頑張れば達成できるだろう!』といった絶妙な難易度を設定する必要があるということになります。
仮に、普段から1日30分は本を読むことができているのであれば、Achievableの要素を含めると以下のような内容になります。
自己啓発に関するいま話題の本を1日45分以上は読む。
30分の読書は既に習慣になっているのであれば、それを少し上回る(十分に達成可能な)45分以上を、本を読む時間として設定しています。45分以上なので、日によっては1時間となっても良いという解釈になります。
目標設定の技能的側面4 : Relevant/価値観に沿った目標を設定する
この技能的側面は、ここでの例でいえば、自己啓発に関する本を読むことが自らの価値観に沿っているのか、また、本を読むという行為自体が自らの価値観に沿っているかという点で検討されるポイントとなります。
あなたが、自分自身を成長させることを重視しているのであれば、『自己啓発に関する本を読む』という目標は価値観に沿っていることになります。
また、知識を増やしたいという願望があるのでれば、この場合に基本となる『本を読む』といった目標も、あなたの価値観をしっかりと反映できているといえます。
目標設定の技能的側面5 : Time-based/期限のある目標を設定する
期限のない目標は、厳密には目標ではなく『夢』であるといえます。
◆ 登山の場合も、登山計画には必ず期限が伴います。
つまり、期限とは目標を目標たらしめている重要な要素であるということができるでしょう。
そして、このTime-basedの要素を目標に組み込むと以下のような感じになります。
自己啓発に関するいま話題の本を12月末までに○冊読む。1日に読む時間は45分以上とする。
期限が設けられることで、それがある意味プレッシャーとなり、行動が動機づけられることになります。
5つの技能的側面を反映させることによって、以下のように目標の内容をブラッシュアップさせることができました。
改善前 : 本を読む。
改善後 : 自己啓発に関するいま話題の本を12月末までに○冊読む。1日に読む時間は45分以上とする。
繰り返しますが、目標設定は技能であるといえますので、練習を繰り返すことでスマートゴールセッティングをスムーズに実現できるようになっていくはずです。
目標設定は『自己理解』を深める作業でもある
なお、スマートゴールセッティングを確実に目標に反映させていくためには、ある重要な要素を欠かすことができません。
それは自分自身に対する理解である「自己理解」です。既にお気づきかもしれませんが、自己理解の要素が求めらえるのは、特に『Achievable』と『Relevant』の側面になります。
つまり、達成可能な目標を設定するためには、現在の自己の能力を正確に把握できている必要があります。
◆ 登山の場合も、これまでの経験や能力をもとに自分に合った登山計画を立てることになります。
また、価値観の沿った目標を設定するためには、自らの価値観を把握しておく必要があるでしょう。
例えば、アスリート・スポーツ選手であれば、『周囲から認めてもらいたい』、『自己実現を目指したい』、『人々に元気になってもらいたい』等の価値観があるとします。
それを踏まえて『一流の選手になるためにトップリーグでプレーしたい』、『大会で優勝したい』、『オリンピックでメダルを取りたい』といった目標が設定されることになってきいます。
このように、適切な目標を設定するためには、SMARTゴールセッティングに加え、自己理解の要素が必要になるとお分かりいただけたかと思います。
目標設定は『更新』することが大切
目標は期限があるものなので、上手くいけばその期限内に達成されることになるでしょう。そして、その達成後に、私たちは何をすべきでしょうか?
もちろん、目標の達成を祝福することは大切だと思いますが、それ以上に重要なのは目標を更新する作業だといえます。
例えば、目標に関して人は以下の時に無気力の状態になるといわれます。
- 目標のレベルが高すぎる時
- 目標の内容が自らが望むものでない時
- 目標がない時
そうです。目標が達成された後、その更新作業が行われないということは、それは『目標がない』ことと同義になります。
同様のことは、大学受験においても観察されるといえます。多くの場合、大学合格後にその次の目標がスムーズに設定されないために、入学後、さまざまな誘惑に流れてしまう生活を送ることになってしまいます。
あなたが持続的に自らを成長させていくことを望むならば、目標を更新しつづけていく必要があるといえます。
目標を達成したということは、そこから見える景色は以前よりも大きく変わっているはずです。注意深く観察すれば、魅力的な新たな頂が見えていないでしょうか。あるいは、その存在にまだ気づけていないだけかもしれません。
◆ 登山の場合も、ある山の頂からはさらに標高の高い山々を望むことができます。
きっと、そこまで足を運んでみたいと強く思うはずです。きっとそこには、『下山』の二文字はないでしょう。
下山がないということは、あなたはこれから一生涯にわたって走り続けることになります。高みを目指しつづける人生の旅路ともいえるものではないでしょうか。
目標を設定しつづけるために必要なもの
あなたは既に、高みを目指しつづける人生の旅路に入っているかもしれません。
そこでは必要に応じて目標の内容を一部変更したり、更新したりしながら、目標を設定しつづけることになります。
生涯にわたって目標を設定しつづけ、自らを鼓舞しつづけることは、一見、辛いようにも思われます。
それを無理なく実践していくためには、やはり自己理解を深めながら、自分に合ったペースというものを見出していく必要があると思います。自分自身のペース、つまり自分が生きていくペースというものです。
◆ 登山の場合も、ほぼ全員が自らのペースで、それを最後まで維持しながら山頂を目指します。言い換えれば、ペースが一定でない場合は山頂到達は難しくなるということです。
一時的に背伸びをしたり、明らかに無理があるペースはいずれ続かなくなります。大事なのは、そのペースを維持し、生涯にわたり活動しつづけることだと思います。
結局のところ、あなたにとってのペースはあなた自身にしか分かりません。必要以上に周りと比較せず、自分自身と向き合いながら、自らのペースを見出していって欲しいと思います。
まとめ
目標は私たちの行動を動機づけるチカラの源であるといわれるように、目標を設定することで、私たちは自身の成長を効果的に促していくことができます。
行動が動機づけられる、行動が変わるということは、その前に意識の変化、「意識が変わる」という過程を経てきているはずです。
つまり、目標を設定することで、日々をより意識的に過ごすことができるということだと思います。
人間の意識の大半は潜在意識であるいわれています。自覚できる限られた顕在意識を活性化し、自身を効果的に成長させていく上で、目標は欠かすことができないものといえるのではないでしょうか。
この記事の内容が、あなたの目標との付き合い方に役立つものとなれば幸いです。長文にわたり目を通していただき、ありがとうございました!
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