ライフスキルとは生きる力に極めて類似した能力として位置づけられるものです。
このブログでは以下に示す10のスキルを私たち日本人におけるライフスキルとしてとらえ、それを身につけていくための視点や方法等について、可能な限り科学的根拠(エビデンス)にもとづきながら解説をしています。
- 目標を設定するスキル
- 考える力
- 最善の努力
- 失敗の挽回力
- コミュニケーションスキル
- 礼儀・マナー
- 感謝する心
- 謙虚な心
- ストレスマネジメントスキル
- 体調を管理するスキル
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スキルであるということは、ライフスキルは生まれつき備わったものではなく、さまざまな経験を通じて身につけていくことができると解釈されています。
そして、そのような経験の1つとして注目されているのがスポーツの経験です。ここではスポーツ経験とライフスキルとの関係について述べていきたいと思います。
ライフスキルはスポーツを通してトレーニングすることができる?
スポーツを経験されてきた方、現在取り組んでいる方であればお分かりになると思いますが、スポーツを通してライフスキルは練習・訓練することができるといえます。
例えば、定期的に開催される大会に向けて目標を設定するという行為を通して、目標を設定するスキルが身についていくと考えられます。
また、チームの中ではメンバーや指導者と密に意思疎通する必要がありますので、日々の交流を通してコミュニケーションスキルが身についていくことが期待されます。
さらに、大会でパフォーマンスを発揮することは時に大きなプレッシャーとなり、それから生じるストレスに適切に対処することが求められます。その対処行動を通してストレスをマネジメントするスキルや体調を管理するスキルが身についていくといえるでしょう。
大会でパフォーマンスを発揮するためには、サポータとの関係を良好にしていくとも大切です。そのことへの意識は、周囲に感謝する心や謙虚な心を磨いていくことにつながっていくと考えられます。
このように、以下に再掲する10のライフスキルは、スポーツを通して身につけていくことができると予測されるでしょう。
- 目標を設定するスキル
- 考える力
- 最善の努力
- 失敗の挽回力
- コミュニケーションスキル
- 礼儀・マナー
- 感謝する心
- 謙虚な心
- ストレスマネジメントスキル
- 体調を管理するスキル
ライフスキルに関する研究では、スポーツ選手・アスリートとそれ以外の人々のライフスキルのレベルの比較がこれまで多数実施されてきていますが、その全てにおいて前者のスキルレベルが統計的に有意に高いという結果が得られています。
ライフスキル自体は、職種や立場、年代を越えて私たちのパフォーマンスの発揮を支える幹と根っこの役割を果たしているものです。これまでの研究結果からも、ライフスキルはスポーツの経験を通して身につけることができると考えられています。
ライフスキルとスポーツとの関係を考える上での注意点
ここで両者の関係性を考える上での注意点を複数述べておきたいと思います。
因果関係まではまだよく分かっていない
これまでの研究結果を見ると、スポーツ経験がライフスキルの獲得に好ましい影響を及ぼしていうように思えますが、両者の因果関係は実はまだ良く分かっていません。
すなわち、スポーツの経験がライフスキルの獲得に効果的につながるのか、あるいは、もともとライフスキルのレベルが高い人がスポーツを行う傾向があるのか、という疑問が存在しているということです。
個人的には両方の関係性があるのではと見ています。ここではむしろ、スポーツを通したどのような経験が、どのようなライフスキルを身につけることにつながるのかを詳細に検討していくことが重要ではないかと考えています。
スポーツと目標を設定するスキルとの関係性の真意
先ほど、スポーツを通して目標を設定するスキルを身につけることができると述べましたが、果たして本当にそうでしょうか。
なぜなら、私たちの研究グループのデータでは、以下の内容からなる目標設定スキルの得点は、他のライフスキルの得点に比べて最も低い傾向にあることが示されているからです。
- 目標を達成するための計画を具体的に立てている
- 一週間や一か月、半年単位と、ある期間ごとに目標を立てている
- 目標は考えるだけではなく、紙に書き込むようにしている
- 強く意識しつづけるために、目標をノートやスケジュール帳に書き込んでいる
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確かに、スポーツではさまざまなレベルの大会が開催され、目標を設定しやすい活動であることに間違いはないと思います。
ただそれは、場合によっては「全国大会出場」等といった目標が設定されるだけであり、その目標の質(具体性)やその達成に向けたさまざまな工夫もあわせて実施されるというわけではない可能性があります。
目標が設定しやすいということは、裏を返せばそれほど苦労をしなくても目標を設定できるということであり、スキルを練習・訓練するという意味では必ずしも適した環境であるとはいえないのではないでしょうか。
目標を設定するスキルとしてさらにレベルアップしていくためには、まず、なんとしても目標を達成するという強い気持ちがあり、その気持ちにもとづく達成への創意工夫が求められそうです。
また、目標設定に関する指導者からの助言・アドバイスも効果的ではないでしょうか。
一部のスポーツ選手・アスリートによる問題行動からの疑問
依然としてメディアでは、一部のスポーツ選手・アスリートによる飲酒・喫煙、暴力行為等といった不適切な行動が報道され、世間の注目・関心を集めています。
このことは裏を返せば、スポーツ選手・アスリートは人として、人間としてより成長できているという人々の認識に反したことへの反発としてもとらえられます。
これらの出来事からいえることは、スポーツをしていれば誰でも自動的にライフスキルが身につくというわけではなく、あくまでどのような目的意識のもと、スポーツを通してどのような経験を積まれてきたかが重要になるということだと思います。
スポーツが提供してくれるのは、ライフスキルを効果的に練習・訓練する機会や環境であるということができそうです。
特に運動部活動においては、たくさんの子どもたちが青春の大部分をスポーツに費やしています。汗を流した多くの時間が、彼・彼女らのライフスキルの形成に確実に結びついていくことを望みたいと思います。
スポーツ選手・アスリートに対してライフスキル教育が実施される訳
ここまでの内容からも、スポーツの経験を通して多様なライフスキルを獲得できる可能性は高いと思います。
にもかかわらず、学校の運動部活動をはじめ、スポーツの現場においてライフスキル教育が実施されるのはなぜでしょうか?その理由を以下にまとめてみました。
ライフスキルの獲得をより促していくため
1点目は、スポーツ活動のライフスキル獲得への効果をより高めていくためというもので、これは学校教育の一環である運動部活動内でライフスキル教育が実施されるケースとなります。
ライフスキル教育と似た選手の人間的な成長を促す指導は、かねてから指導者によって行われていると思います。
それをより分かりやすく、確かな形で選手たちに伝えていくためにライフスキル教育が導入されているということになります。
また、一部の選手に見られる暴力行為等の問題行動を、ライフスキルの獲得をさらに促すことで未然に防止していこうという目的も見られています。
部活動内で実施される場合は、指導者自身がライフスキル教育を行う場合と、外部の専門家が指導者と協同しながら実施する場合とがあると思います。
後者の実施形態の詳細については、以下の関連記事を参照してみてください。
スポーツを通して獲得してきたものを確認するため
2点目は、スポーツキャリアを通じての自身の成長を再確認するためというもので、これは実業団の選手やトップアスリートを対象として実施されるケースとなります。
スポーツを通して獲得してきたライフスキルや自らの強みを確認・意識することで、引退後の新たなキャリアの形成をサポートすることを目的としています。
スポーツとライフスキルに関するこれまでの研究では、競技レベルが高くなるほど、身につけているライフスキルのレベルも高い傾向にあることが明らかにされています。
そのように見ると、スポーツ界は社会の発展に貢献できる人材の宝庫であるともいうことできます。
引退後の新たなステージへのスムーズな橋渡しを、ライフスキル教育は担っていくことができるのではないでしょうか。
まとめ
ライフスキル自体は多様なスキルから構成されていますが、その中でも目標を設定するスキルは、多くのライフスキルの獲得にプラスの影響を及ぼす中核的なスキルの1つです。
研究データからも、そのスキルを高いレベルで身につけている選手は、全国レベルの大会で上位の競技成績を達成できたり、引退後、新たなキャリアを順調に発展させていけることが示されています。
スポーツ選手・アスリートを、人として・人間として大きく成長させることができる活動の本質は、自らの実力をいかんなく発揮するための機会(大会)が多数確保されているということなのかもしれません。
あなたにとっての大会とは何ですか?あなたにとっての○○の機会を大会として意識することで、誰もがスポーツ選手・アスリートとして、自らのライフスキルの向上に向けて効果的に活動していくことができるのではないでしょうか。
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