人は誰しもいろいろな顔を持っていると思います。それを実感できるのは主に対人場面ではないでしょうか。
家族や親友といる時、友だちといる時、街中にいる時、そして、パートナーと一緒にいる時、あなたはどのような自分を表に出していますか?あるいは、出さないでいるでしょうか。
そのような自身の様子を客観的に知ることで、自己理解を深め、円滑な人間関係を築きながら、より良く生活していくことが可能になっていきます。
この記事では、まず、人とのかかわりの中で実感される、多様な自己のあり方を表すジョハリの窓について説明をします。
次に、その窓の考え方にもとづく、本当の自分を知る『ジョハリの窓ワーク』の進め方について説明をしていきたいと思います。
ジョハリの窓とは
ジョハリの窓とは、円滑な人間関係の構築に向けた自己理解の心理モデルです。その考え方が発表されたのは1955年で、今から半世紀以上も昔のこととなります。
発案者はアメリカの心理学者であるジョセフ・ルフト とハリ・インガムです。
当初は『対人関係における気づきのグラフモデル』と呼ばれていましたが、後に2人のファーストネームを組み合わせて『ジョハリの窓』と呼ばれるようになりました。
よく思われることですが、実際に『ジョハリ』という人物がいたわけではないということです。
◆―関連情報―◆ ジョハリの窓 / Wikipedia
『ジョハリの窓』自体は自己と他者の2つの軸からなる、以下の4つの窓から構成されています。
各々の窓は、自己と他者のそれぞれが『わかっている』、『わからない』という状態を組み合わせて分類がなされています。
早速、それぞれの窓について順に説明をしていきます。
開放の窓
まず、『開放の窓』についてです。これはあなたが感じている自己のイメージと、他者があなたに対して感じるイメージが一致している部分となります。
例えば、あなたが自分のことを『明るい』と感じている時、友だちも同じようにあなたのことを明るい人物であると感じていれば、『明るい』というイメージはあなたにとっての『開放の窓』となります。
この開放の窓が大きくなることで、以下のような効果が期待されます。
- 人間関係において誤解が生じにくくなる
- 人前で本当の自分を出して振る舞うことができる
- 人間関係上のストレスが生じにくくなる
秘密の窓
次に、『秘密の窓』について説明します。これはあなたが感じる自己のイメージのうち、他者が知らないイメージの部分となります。
例えば、自分は本当は人間関係が得意ではないが、周囲の友だちはそれを知らずにかかわっているようなケースです。
この秘密の窓が大きくなってしまうと、相手とのコミュニケーションが不自然となってしまい、ギクシャクした関係性になってしまう可能性があります。
盲目の窓
3番目に、『盲点の窓』について説明します。これは自分自身では気づいていない、他者のみが知るあなたのイメージとなります。
例えば、周囲の人はあなたのことを優しいと感じていても、本人は全然そのような認識を持っていないケースとなります。
『自己理解を深める』とは、この自分自身では気づけていない盲点の窓を小さくしていくことともいうことができると思います。
未知の窓
最後に、4番目の『未知の窓』について説明します。未知の窓とは、自分も含め、誰も知らないあなたのイメージとなります。
この部分に入るのは、いまの自分からは想像ができないイメージになることが多いと思われます。
例えば、現在、私は大学の教員としての立場にありますが、大学院に進学した23歳の頃は、教員ではなく研究者になりたいと思っていました。
人前に立ち、何かを教える、伝えることは苦手というイメージを持っていたからです。
ですが、いまは自分の研究結果や役に立つ情報を伝えることに大きなやりがいを感じています。つまり、私にとっての未知の窓とは、『人に伝えることが好き』という部分であったと思います。
ではつづいて、ゲーム感覚で実施できるあるワークを用いながら、自身のジョハリの窓をより詳しく実感できる流れについて説明をしていきたいと思います。
本当の自分を知る『ジョハリの窓ワーク』
ワークで使用する用紙
ワークでは、以下のような用紙を使用します。
一番左側の列には、人のポジティブなイメージが25個並んでいます。この内容自体は自由に変更することが可能ですし、イメージの数も自由に変更可能です。
この用紙では、最大6名でこのワークを実施することができます。もちろん、5名でも4名でも実施可能ですが、ワークの効果を高めるためには人数は多い方が望ましいでしょう。
なお、このワークの面白さはその実施手順にあるといえます。以下に、ワークの進め方を具体的に説明していきます。
ワークの進め方
ステップ1 : 氏名の記入
ここでは6名でワークを実施した想定で説明をしていきます。
まず、一人ひとり、表左上の氏名欄に自分(山田太郎)の名前を記入します。
ステップ2 : 自己評価の記入
次に、表右端の列にある本人記入の欄に、自分(山田太郎)のイメージはコレといったものを5つ選び、○印をつけていきます。
○印を付ける際、周囲に見られないようにしてください。後述しますが、他者評価に影響を及ぼしてしまうため、この作業は秘密厳守で行います。
また、記入し終わったら、自己評価の列の部分のみを裏に折り曲げ、表面からは確認ができないようにしてください。
下の表は右端の自己評価の部分だけを裏に折り曲げた状態となります。
この状態で、全員が自分の隣の人(右隣 or 左隣で統一)にこのシートを一斉に渡してください。
ステップ3 : 他者評価の記入(1人目)
シートを受け取った人は、まず、表の最上部の①の箇所に自身の情報を記入します。ここでは本名ではなく『A』と記入しました。
次に、氏名の欄に書かれている人物(この場合は“山田 太郎”)に対して感じるイメージを同じく5つ選び、①の列に○印を付けていきます。
この時も、誰にも見られないように注意して印を付けていきます。記入が終わったら、①の列のみを裏側に折り曲げ、表面からは確認ができないようにしてください。
全員の記入が終わったら、また自分の隣の人に一斉にシートを渡すようにします。
ステップ4 : 他者評価の記入(2人目以降)
2人目以降は、『ステップ3』で記した作業を5人目まで繰り返していき、自分のシートが手元に戻ってきたら終了となります。
自分に戻ってきた時には、用紙は以下のような形になっているはずです。
ステップ5 : 自己評価と他者評価のズレの確認
全員の手元に自分のシートが戻ってきたら、裏返した部分を全員で一斉に開きます。
このワークにおいて一番盛り上がる瞬間です。まるで、学校の成績通知書を受け取るような気分ではないでしょうか。
用紙を開くと、以下のような内容を確認することができます。あくまでもワーク実施時点における、自分のイメージへの自己評価と他者評価の分布となります。
ここには『山田太郎氏』のジョハリの窓がはっきりと表れています。では次に、この用紙の解釈の仕方について説明をしていきます。
ステップ6 : 自分の『ジョハリの窓』を具体的に理解する
自己分析1 : 自分の『開放の窓』を知る
自己評価と他者評価が一致するイメージが開放の窓となります。
山田氏の場合は、5番目の『責任感がある』と7番目の『練習熱心な』というイメージが公開された自己、すなわち開放の窓であるということができます。
この2つは全員の評価が一致していますので、自他ともに明確に公開されているイメージであると考えられます。
もちろん、15番目の『粘り強い』も開放の窓として解釈されます。
自己分析2 : 自分の『秘密の窓』を知る
○印が自己評価にあって他者評価にないイメージが秘密の窓となります。
山田氏の場合は、4番目の『信念のある』と18番目の『メリハリのある』というイメージが秘密の窓として位置づけられます。
自己分析3 : 自分の『盲目の窓』を知る
○印が他者評価にあって自己評価にないイメージが盲目の窓となります。
山田氏の場合は、特に8番目の『礼儀正しい』と19番目の『誠実な』が盲目の窓として位置づけられるでしょう。
この2つは複数人の他者評価が一致していますので、盲目の窓としての信頼性は比較的高いものと思われます。
加えて、この窓に当てはまるイメージは、これまであなたが意識していなかった自己のイメージであり、自分が持つ魅力や強みとして、今後、活かしていくことができるものとなります。
繰り返しますが、山田氏の場合は『礼儀正しい』や『誠実な』というイメージとなります。
これらのイメージを自らも意識することで、多様な人物とのコミュニケーションを円滑に進めていくことができるのではないでしょうか。
自己分析4 : 自分の『未知の窓』を知る
最後に、自他ともに誰も知らない未知の窓を示すものを説明します。
それは今回のワークで一つも○印がつけられていないイメージは、すべて山田氏にとっての未知の窓である可能性があります。
○印が全くないからといって、『自分のイメージとは程遠い』と否定的に受け取る必要性はないということになります。
自己分析5 : まとめ
以上の自己分析の結果を簡潔にまとまると、以下の表のようになります。
開放の窓 | 責任感のある | 練習熱心な |
秘密の窓 | 信念のある | メリハリのある |
盲目の窓 | 礼儀正しい | 誠実な |
未知の窓 | 元気、はつらつとした | さわやかな 他多数 |
このワークの結果は、メンバー同士の関係性が継続する期間によっても変わってきますので、定期的かつ継続的にワークを実施すると、イメージの変化の様子を見れて面白いと思います。
『ジョハリの窓ワーク』における注意点
ここで紹介をしたワークに記されている人物のイメージは、すべてポジティブなものとなりますので、ワークを実施することで人間関係に悪影響を及ぼしてしまう危険性は極めて低いものと思われます。
『無表情』、『おてんば』等といったネガティブ寄りのイメージを含めて実施することも可能ですが、その場合は、メンバー間にある程度の信頼関係が構築されている状態で実施されることをお勧めします。
『ジョハリの窓ワーク』のつづき
ワークを行った後、未だはっきりとしない感があるのはやはり『未知の窓』に関してではないでしょうか。
確かに、○を付けられていないイメージはすべて自分にとっての『未知の窓』である可能性があるという解釈は、なんとも曖昧なものといえます。
そこで、この記事の最後では、『未知の窓』の実態に迫っていく方法について述べたいと思います。
『未知の窓』へのアプローチ1 : 自己開示とフィードバック
結論からいえば、自身の『未知の窓』に迫っていく方法は、以下のように『開放の窓』を広げていくということになります。
具体的に説明すると、『秘密の窓』へ向けての矢印は、あなたが周りの人たちに向けて自己開示を行っていくことを表しています。
また、『盲点の窓』へ向けての矢印は、自分の状態や特徴について周囲からフィードバックをもらうことを表しているといえます。
そのようにして徐々に『開放の窓』が広がっていくと、『未知の窓』と重なる部分が出てくることになります。
この重複部分が大きくなればなるほど、自分にとっての『未知の窓』の実態を明らかにすることができるという流れになります。
『未知の窓』へのアプローチ2 : 新しいことへの挑戦
2つ目のアプローチは、1つ目の方法よりも効果的に『開放の窓』を広げることができるものとなります。
それは、自分自身にとって新しいことへの挑戦です。矢印で表すと、下の図のように斜め方向のものとなるでしょう。
新しいことへの挑戦が、自己開示と周囲からのフィードバックを兼ねている点について説明します。
まず、自己開示自体は、言葉によるものにくわえ、自発的・主体的な行動や人間活動もそれに含まれるといわれます。
例えば、スポーツにおける身体的パフォーマンスや文化的活動、芸術的な創作活動等もすべて自己開示の形であるということです。
あなたが何か新しいことへ果敢に挑戦する姿は、紛れもなく周囲への自己開示になっているということです。
フィードバックに関しては、チャレンジの結果そのものがフィードバックの役割を果たしているといえます。
自分は○○(新しいこと)に関してはどれくらい遂行することができるのか、という新規の情報は、誰が発するものよりも強力なフィードバックとして本人に届けられるのではないでしょうか。
以上の2つのアプローチを通して、自らの『未知の窓』の実態に一歩一歩迫っていくことができると思われます。
興味・関心のある方は、是非、試してみてください!
まとめ
今回紹介しました、一人ひとりが自分のジョハリの窓を実感するワークは、自分と他者の認識におけるズレを明確に実感することができるものといえます。
自らが感じている(信じている)世界が、決して全てではないことを優しく教えてくれているのではないでしょうか。
私たちは誰もが、自分自身で感じている以上に、実はもっと魅力的に他者には映っているのかもしれません。
それを確かめる一つの手段として、この記事で紹介をしましたワークが少しでもお役に立てば幸いです。
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