人は自分とも頻繁に会話しているといわれます。そこでの言葉は「セルフトーク」と呼ばれ、一説によれば人は一日に5万回前後のセルフトークをしているといわれます。
また、この膨大な数の多くの部分を占めているのが『やばい』『まずい』『だめだ』等といったネガティブなセルフトークです。
これは見方によっては自分自身にダメ出しをしつづけている状態ともいえ、ちょっと自分のことがかわいそうになりませんか?
この記事ではセルフトークがあなたの心身に及ぼす影響と、ポジティブ寄りのセルフトークを実践していくための方法について述べていきたいと思います。
セルフトークとは
セルフトークとは簡単にいうと独り言です。
先に紹介をしたネガティブなものに加え、『よっしゃー』『いい感じ』『いけるいける』等といったポジティブなセルフトークもあります。
また、言葉として発するものと、こころの中で呟くものも含めることができます。
さらに無意識的なものもあるといわれ、そこまでを含めると一日に数万回ものセルフトークを発している様子が想像できますね。
このようなセルフトークは、上で紹介した複数の例のように、短い言葉で構成されている点が特徴です。
短い言葉であるがゆえ、多くの場合、セルフトークは目の前の状況や自らの行動の結果を受けて反射的に発せられているともいえます。
あなたが普段から発しているセルフトークは、ネガティブとポジティブ、どちらの割合が多いですか?
セルフトークがあなたに及ぼす影響
次に、セルフトークがあなたの心身に及ぼす主な影響について見ていきます。
影響1 : 感情や行動に影響を及ぼす
アスリートにおけるメンタルトレーニングの文脈では、試合場面において最高のパフォーマンスを発揮するための取り組み(心理技法)の一つとして、ポジティブなセルフトークの実践が指導されています。
その理由は、セルフトークが選手の感情や行動に影響を及ぼすからというもので、特にネガティブなセルフトークは、パフォーマンスに負の影響をおよぼす不安や緊張の喚起につながってしまうおそれがあります。
また、ポジティブなセルフトークの実践を意識的にトレーニングするということは、裏を返せば、私たちは普段からネガティブなセルフトークを発する傾向にあることを意味しています。
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影響2 : セルフイメージの形成に影響を及ぼす
私たちは五感を通して周囲の状況や自らの様子を把握していますが、その際、主要な役割を果たしているのが視覚と聴覚です。
特に聴覚により自分自身を把握する場合は、自分が発する言葉を耳で聞いて、認識を深めるという形になります。
すなわち、普段何気なく口にしているセルフトークは、聴覚を通して自分はどのような人間であるのかといったセルフイメージの形成を促しているということができます。
繰り返しますが、セルフトークにはポジティブとネガティブなものがあるので、後者のトークからは自信のないセルフイメージが形成されてしまうことになります。
人は誰しも『自信をつけたい!』という願望があると思いますが、自分が発する言葉がその足を引っ張ってるなんて思いもよらないですよね。
また、私たちはセルフイメージに沿って行動しようとするので、ネガティブなセルフイメージからは消極的な行動パターンが発現することになります。
つまり、成長に向けて積極的な行動パターンを取っていくためには、ポジティブなセルフトークを重ねながらセルフイメージを高めていくことが望まれます。
この記事では、最終的にポジティブなセルフトークの実践方法について触れていきますが、その前にネガティブなセルフトークを発してしまう原因について述べていきます。
セルフトークがあなた以外に及ぼす影響
セルフトークは発信者のあなた以外にも影響を及ぼしています。それは何だと思いますか?
それはズバリ、あなたの周りの雰囲気です。これはグループで何か作業をしていたり、練習をしている時の話しになります。
私は大学の体育実技で器械運動の授業を担当していますが、そこではグループ単位で練習をしてもらっています。
人によっては技が上手くできない直後に『ダメだぁ』『できない』というネガティブなセルフトークが発せられることがあります。
その時、その学生が所属するグループの雰囲気はどうなるでしょうか。学生たちの様子を間近で見ていると、そこから雰囲気が良くなることはなく、逆に少し静かになってしまう感じです。
試しに、その学生に結果はどうであれとにかくポジティブなトークを発するようアドバイスをしてみました。
すると、上手くできなくても『できてる!』と大声でセルフトークが発せられ、笑いが起こるとともに、『あともう少し!』『がんばれー』といった声かけのある活発な雰囲気になっていきました。
このような自分以外への影響にも目を向けることで、ポジティブなセルフトークをより意識していくことができるのではないでしょうか。
ネガティブなセルフトークを発してしまう原因5選
原因1 : 周囲の人物からの影響
私たちが日々発する言葉は、実は周囲の人物の影響を多大に受けてきています。
幼児期であれば、育ての親やその役割を果たす大人の話し言葉・口調がコピーされるといった感じです。学童期や青年期であれば、クラスの友だちが発する言葉がコピーされてきたと思います。
そして、あなたのそのセルフトークも、身近にいた人物のトークの影響を受けている可能性があります。ポジティブなセルフトークを身につける鍵は「前向きな人物と一緒にいる時間を増やす」ということかもしれません。
同じことは「性格」にもいうことができます。特に人への厳しさや優しさといった面は、自分の親やそのような役割にあった人物からの影響が強く反映されているといわれます。
以下の「関連記事」では、エゴグラムという性格検査をもとに、親の影響を受け形成されてきた自分を分析する視点が詳しく紹介されていますので、ぜひこちらもご覧になってみてください。
原因2 : 理想と現実とのギャップを強く感じている
私たちは誰しも理想の姿を持っています。そして、それを実現するために目標を立て、それを達成できるように日々努力しています。
その理想の姿と現実とのギャップは、目標達成に向けた動機づけであったり、謙虚な姿勢を形成する等、私たちにプラスの影響を及ぼしてくれているはずです。
◆ カテゴリー:コミュニケーション
ただ、そのギャップを強く感じ過ぎると、それはネガティブなセルフトークにつながってしまうおそれがあります。
もちろん、高い理想を掲げることは大切です。ですが、その高い理想の姿のみを掲げてしまっていたり、目標達成までの過程に段階的な目標設定がされていない場合、その理想の姿がマイナスに作用することになってしまいます。
例えば登山の場合も、常に山頂のみを意識して登っていけば、現状と山頂とを比較し、『まだまだ全然近づけていない』『このままたどり着けないかもしれない』等とネガティブなセルフトークが自然と出てしまいます。
そうなると、素晴らしい景色や高山植物を楽しむ余裕も無くなってしまいますね。
ネガティブセルフトークを抑制する鍵は、目標達成までの過程に、小さい満足感・達成感を定期的に得るための段階的な目標を設定するということになります。
つまり、目標設定には「コツ」があるということです。ですが、これらの内容は高校までの学校教育の中では教わる機会はほとんどありません。
以下の「関連記事」では、NGポイントいう逆の視点から目標設定のコツを解説していますので、お時間があればこちらもぜひチェックしてみてくださいね。
原因3 : 早く結果や成果を出したいと思っている
いまは時短・効率化がとても重視される時代です。『初心者でもすぐに結果が出せる』『◇◇の資格を最短○か月で取得可能』等と、私たちの身の回りにはとても魅力的な言葉が飛び交っています。
このようなフレーズに頻繁に触れていると、ついついどんなことでもすぐに結果や成果を求めるようになってしまうのではないでしょうか。
いえ、『どんなことでもすぐに結果や成果を出すことができる』と、変な思い込みを持ってしまうことになるかもしれません。
このような成長を急ぐ姿勢や態度でいると、原因2で述べた理想と現状とのギャップをより強く感じることになってしまうでしょう。
そしてそれは結果として、『なんでできないんだ』『なんでもっと上手くできないんだ』といったネガティブなセルフトークにつながっていってしまいます。
原因4 : 後悔ばかりしている
誰でも後悔はするように、「後悔する」というのはヒトにおける考え方の1つの形です。
ですが、後悔ばかりしていると後ろ向きの姿勢が強化され、『ああ、あの時○○しておけばよかった』等のネガティブなセルフトークを頻繁に発してしまうことになるでしょう。
◆ カテゴリー:ストレス
原因5 : 思考パターンが「固定マインドセット」になっている
「マインドセット」とは、あなた自身に安定的に見られる思考パターンのことで、以下の2つの種類があるといわれます。
成長マインドセット(グロースマインドセット/Growth Mindset)
固定マインドセット(フィクスドマインドセット/Fixed Mindset)
前者は『自分の能力は努力次第で変えていくことができる!』という思考パターン、後者は『自分の能力はもう変えることはできない…』という思考パターンのことです。
そして、ネガティブセルフトークと密接に関係しているのは固定マインドセットの方ですね。
ここで、固定マインドセットがネガティブセルフトークにつながる事例をひとつ紹介します。
私は大学で器械運動の実技授業を担当しています。そこで学生たちは、開脚前転、倒立前転、側転等、非日常的な運動課題の達成を求められることになります。
そして、その達成のためには何週にもわたって練習を繰り返していくことも見られます(授業自体は週に1回)。
その際、固定マインドセットの状態になっているっ学生は、失敗するたびに『ダメだ』『無理だ』『できない』といったネガティブセルフトークを連発してしまいます。
それにより、『自分は器械運動が苦手』というセルフイメージがどんどん強化されてしまい、ますます、練習をしても上手くいかないという悪循環に陥ってしまうという形です。
自分の成長に自らブレーキをかけてるようで、なんとももったいないと思いませんか?
これまでの様子を見る限り、ネガティブセルフトークは反射的に発せられている印象です。もしかしたら、ほぼ無意識レベルのトークになっているかもしれません。
改善に向けては、まず、ネガティブセルフトークを多用してしまっていることを自覚することから始める必要がありそうです。
セルフトークをポジティブ寄りに変えていく方法
それでは最後に、日々、ポジティブなセルフトークを発していくための方法について述べていきたいと思います。
改めて確認をしておくと、セルフトークとは独り言であり口癖です。口癖であるということは、安定的に身についているものということです。
それがネガティブなものの場合、そこからいきなり180度反転してポジティブなセルフトークを連発していくことは容易ではありません。
先ほどの事例であれば、『ダメだ』『無理だ』『できない』を『大丈夫』『いけるいける』『できる』に変えていくというものです。
一時的に変えることはできても、気を抜けば再び元のネガティブセルフトークに戻ってしまう可能性があります。
そこで、その変化を安定的に維持していくための方法として、いきなりポジティブセルフトークに変えていくのではなく、少しだけポジティブ側に寄ったセルフトークを発するようにします。
具体的には、『ダメだ』『無理だ』『できない』の後に、『でも、できつつある』『でも、改善しつつある』『でも、上達しつつある』という内容を付け加えていきます。
現実的にも、状況が急に好転していくことはなかなかないと思います。目標達成(山頂)に向けた登山の場合も、状況が変化するスピードはあくまでも一歩一歩です。
変化のスピードはとても遅いですが、その一歩一歩を通して山頂に近づきつつあるというのは紛れもない事実です。
それと同様に、上手くできないこと、上手くいかないことがあっても、それによって練習量が一つ積みあがったり、次に上手くいくための教訓や気づきが得られているはずなので、状況は改善しつつあるといえます。
ポイントは、ネガティブからいきなりポジティブに転換しようとするのではなく、あくまでも『○○しつつある』という前向きなセルフトークを意識するという点です。
そのようなトークを無理なく継続することができるようになれば、その次に『できる』『いける』『大丈夫』といったよりポジティブなセルフトークに移行していければいいですね。
まとめ
日々繰り返される私たちの言動や習慣は、いまこの瞬間の一つひとつの言動や行いが積み重なり形成されています。そしてその一つにセルフトークも含まれています。
望ましいセルフイメージや成長マインドセットを身につけていくためにも、『〇〇しつつある』といったポジティブ寄りのセルフトークを意識的に発していきたいものです。
とにかく最初は、『○○しつつある』を『意識しつつある』からでいいですね。
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